The Art of Yoshiko Miyashita
「 新宿の目(L'OEIL DE SHINJUKU)」/1969年/H340×1000×30/アクリル



新宿の目
宮下芳子 

怪物的バイタリティを持つ新宿新都心が、現代日本の若さ、たくましさの象徴として世界に鳴りひびいている。 それは大きな大きな空問――その偉大な空間の整形を私は恐れも知らずに引き受けた。
底知れない力にみなぎっている怪物を、如何に表現したらいいのだろう……
そうだ!!
時の流れ、思想の動き、現代のあらゆるものを見つめる“目”二十一世紀に伝える歴史の“目”…もしかすると 遠く宇宙を見っめる“目”かも知れない。このような多次元の“目”こそ新都心のかなめ「スバルビル」には最 適、と思った。
――さて、でき上ったきな十米近い大きな目玉の前に立ち、自信たっぷりにウィンクできるだろうか?

このよう偉大なる場を与えてくださったスバルビルに感謝いたしております。
体内の瞳

宮下芳子作「新宿の日」によせて 瀧口修造 

古い宿場の新宿。焼野原の新宿。いまは新都心という名の新宿。しかしこの人波の真下の地の底を、古い新宿の 見えない河水が、いまも流れているのだ。若い鮮魚を泳がせながら。
地上、大河のように流れ、よどみ、かつ流れてやまぬ新宿の一角に、ひとつの眼が入った。ここ新宿の胎内のよ うな広場、いや通路と呼ばれる胎内に、ひとつの眼が点じられた。眼は、見られ、そして見る瞳を持っている。 ときには夢みる光りそのもの。また、めくるめく不眠の車輪の眼だ。まばたく星の限だ。しばしば愛の眼。
しかし眼は、眠るときも、覚めたときも、内なる夢の世界か、外なる地上の世界かを、絶えず見ている、不断の 眼、普遍の眼だ。
この人工の光りくるめく眼も、それゆえにひとつの象徴である。だから眼よ、おまえは昼も、夜も、絶えず見据 えていなければならぬ。この新しい「宿場」の胎内に何が起るかを……


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